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天国のような魔境

前橋市今井町にフラワーガーデン泉というお店がある。

 

植物とエクステリアの専門店なのだが、それはまあ広い店内に、たくさんの植物たちがディスプレイされている。

スタッフさんたちは気持ちよくきびきびと動いて植物たちの世話や接客をしており、植物たちはみんな活き活きとしていて、

そこでは深呼吸をしたくなるような、私にとっては天国のような場所だ。

それなのになぜ魔境かといえば…簡単に言ってしまえば、何かしら植物をお家に連れて帰りたくなり、必ず財布を開いてしまうからである。

 

今日はたしか、家にいる植物たちの肥料を買いにいくだけのはずだった。

夫に「肥料を買ってくるね」と告げ、15分後くらいには泉に到着。

天気予報は晴れといっていたのに一向に晴れず、変な雲行きだった。

 

肥料を探しに店内を物色…私は植物の中でも特に多肉植物が好きで、そこのパトロールは欠かせない。

ぷりぷりした葉っぱを伸ばしながら、今日もたくさんの多肉ちゃん達が並んでいる。

 

そこで、遠雷が聞こえた。

しまった、家の2階の窓を閉め忘れたから早く帰らなければ…と思い、踵をかえした瞬間、目が合ってしまった。

 

 エケベリアのメキシカンジャイアント。

まるで真っ白な蓮が静かに開いているような佇まい。

本当は、ずっとずっといつも欲しかったのだけれど、この時期、蓮が恋しくなってくる(しかし、蓮を育てるには水鉢が必要で、そうするとボウフラと蚊との闘いが始まってしまう)から、余計に目が離せなくなってしまった。

どうしよう…どうしよう…

 

雷が近くなり、大粒の雨が屋根を叩き始めた。

メキシカンジャイアントの鉢をそっと手に取る。

もうこの時点で、本当は、心の8割が決まっている。

そしてひときわ大きなどーんという雷鳴と共に、鉢を持って歩きだした。

肥料も忘れずに手に取り、レジに向かう。

そうしたらその道中に、なんということでしょう!

 

ラピュタ…?

 

と思わずつぶやいてしまうような、両掌にちょうどおさまるサイズの苔玉を発見。

茂みの中央に飛行石を探したくなるのをぐっと堪え、色々な角度から眺める。

 

見れば見るほど、ラピュタそっくりのフォルムである。

思考が上手く回らないのは、きっと急な雷雨のせいだろう。

しばらく両手で包み込むように見つめていただけのはずだったが、こちらも気が付いたら、買い物カゴの中へ入っていたのである。

 

レジでお会計を済ませて、店外へ出る。雨に濡れないように、小走りで車に乗り込んだ。

気が付いたら、本来の目的である肥料のほかに、2つも植物がシートに座っている。

フラワーガーデン泉はやはり恐るべき魔境……ワイパーを最大速にして、大雨の中、帰路についた。