もうすぐ梅雨明けしそうな気配ですね。
実は最近、ずっと欲しかった本を入手しました。
写真の本、宮澤賢治語彙辞典です。
この辞典に出会ったのは、私が大学3年生の頃でした。
賢治の詩集『春と修羅』の中から、詩をひとつ選んで考察する、という授業があったのです。
その際に必ずあたらなければならない文献が、筑摩書房から出ている『校本 宮澤賢治全集』と、この『宮澤賢治語彙辞典』でした。
賢治の作品の言葉は、星や植物、鉱物の名前や、特有の造語や擬音がたくさん出てきて、独特のリズム感があって読むのは楽しいです。
しかし、それぞれの言葉をしっかり理解して味わおうとすると、意味のわからない単語がかなり多いのですね。
それらの単語、一般的に使われていないようなもの、星座や植物、鉱物の名前、それを使った賢治の背景を、この本は解説してくれます。
例えばひとつ、賢治の詩の冒頭部分を挙げてみます。
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『春と修羅 第2集』の「鉱染とネクタイ」より
蠍の赤眼が南中し
くはがたむしがうなって行って
房や星雲の附属した
青白い浄瓶星座がでてくると
そらは立派な古代意慾の曼陀羅になる
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最初の蠍の赤眼は、蠍座の中の明るい赤星(アンタレス)というのはなんとなく分かります。
しかし、浄瓶星座や古代意慾の曼陀羅はよく分かりません。
そこで、この語彙辞典を開いてみます。
以下、ところどころ省略しながら、それぞれの項目を引用してみます。
・浄瓶星座 じんびんせいざ
みずがめ座。ジンビンは仏教用語で、手を清めるための水をためる瓶。
作品日付の七月一九日(一九二五)を信用すれば、アンタレス(赤眼)の南中は午後八時半ごろになる。
この時間「みずがめ座」は地平線真東からやや南寄りに顔を出し始めたところである。
・古代意慾 こだいいよく
難解な賢治造語の一であるが、賢治の直観的把握として銀河系の星座たちをこう表現したのであろう。
科学以前の古代的な、たとえば日本でいえば縄文期の人たちが感応したにちがいない鮮烈な天空のエネルギーを、賢治もみずからのうちに恢復させ、うたい上げていると言えよう。
・曼陀羅 まんだら
曼荼羅とも書くが賢治は陀を用いて書く。諸仏を特定の形式に配置した図絵。
なお密教では智徳を表す父性の金剛界曼陀羅、慈悲を表す母性の胎蔵界曼陀羅があり、どちらも中心仏は大日如来。
[鉱染とネクタイ]における曼陀羅の語は、胎蔵界曼陀羅を指す。
どうでしょうか。
これらの項目を読むと、最初の詩の冒頭部分の理解がぐっと深まります。
1925年の7月19日に、賢治が夜空を眺めている様子、
その夜空では蠍座が南中し、東からはみずかめ座が上っていて、
空全体の星々のエネルギーが、胎蔵界曼陀羅のように賢治を包んでいる様子がわかります。
このように、この語彙辞典は、ひとつの単語の意味の解説にとどまらず、どんな作品で使われたのか、そこにはどんな背景があるのかを知ることができます。
読んでいく内に、単語の星と星を結んで、賢治という宇宙を旅している気持ちになれます。
賢治作品については、青空文庫で検索すると、物語も詩もかなり多くの作品を読むことができます。
横書きになっているのが気にならない方、とりあえず宮沢賢治のこの作品を読みたい!思い出したい!という方にはかなり重宝するとおもいます。
また、宮澤賢治語彙辞典については、上の写真のものではない最新版も出ています。
ちょっと賢治熱が高まってしまったので、次回のブログも『銀河鉄道の夜』を中心に、何か書く…かもしれません。
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